鹿児島フリーライターのブログ

横田ちえのブログです。

物語が伝わってくるような写真の数々『鹿児島古寺巡礼』

「日本の古寺の跡は本当に美しい」

これは『鹿児島古寺巡礼』のまえがきの中の一節だ。その言葉通り本の中に登場する古寺の跡は情感に満ちていて美しい。

歴史に詳しくない私は、この本が出た当初は敷居が高く感じられて手に取ることがなかった。けれども著者の川田さんから「写真集だと思って気楽にぱらぱらめくってもらえれば」と聞き、改めて見てみたらとても面白かったのだ。

歴史好きも楽しめるが、歴史に明るくない人間でも写真集として楽しめる。だから『鹿児島古寺巡礼』の魅力と面白さを私なりの視点で紹介したい。

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『鹿児島古寺巡礼』とは

『鹿児島古寺巡礼』は、京都で学生時代を過ごし、街並みや文化の美しさにカルチャーショックを受けた著者の川田達也さんが、京都近郊の古寺・古社を巡る中で、「鹿児島には古寺がない」と気づくところが起点となっている。

幕末から明治にかけての廃仏毀釈でかなりの寺院が消えた鹿児島。しかし、古寺の跡を巡ってみた川田さんはそこに残る豊かな石の文化に衝撃を受ける。石仏や石造物の形それぞれに表情があり、京都や奈良とは違う独自な雰囲気や生々しさがある。鹿児島の古寺跡は決して主張してこないけれど、何気なくそこにあったのだ。

しかし、鹿児島の古寺はほとんどの跡地が一般の墓地となっていてさらに時代の流れで忘れされつつある。そうした古寺の跡の美しさやそこに残る文化や歴史の足跡を求めて、鹿児島じゅうあちこちをライフワークのように巡ってきた川田さん。個人の並々ならぬ情熱から生まれたのがこの『鹿児島古寺巡礼』だ。本には島津本宗家及び重要家臣団二十三家の由緒跡を訪ねて、写真や解説、略系図を掲載している。

物語が伝わってくるような写真の数々

本の中の写真はすべて川田さんが撮影。この写真がとにかく美しく、これがこの本の大きな魅力になっている。私はこの写真を通して「古寺や墓標は美しい」ということを知った。抜けるような青空と静かな墓標の対比、苔に一面覆われた静かな石畳、刻んだ人の祈りが聞こえてくるような摩崖仏。どの写真も物語が伝わってくるようだ。

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本には掲載されていないが、静寂に包まれた雪景色の福昌寺の写真が美しかった。画像は川田さんブログ薩摩旧跡巡礼より引用

墓標が整然とまっすぐに並んでいる様子も美しい。この本の写真すべてが、垂直・水平のバランスがびしっと決まっていて、見ていて気持ちいいのだ。石造物は年月の経過で垂直でないものも多いので、歪みを感じさせないように撮影するのは結構な技術がいる。著者の対象への情熱や愛情が感じられる。

構図や撮影技術もさることながら、タイミングにも細心の注意を払っているそう。古寺・墓標を撮影する際に、湿気は大丈夫だけれど雨で濡れてしまっていると綺麗な写真が取れない。また、一瞬の光の変化で見え方が変わってしまうことがあるので、川田さんは常に一瞬一瞬を逃さないよう奮闘している。さらに、これはご本人から聞いた話だが、山奥に入るために登山装備まで揃えているらしい!

石造物を見ることで気づく人間の営み

本の中で印象的だったのは、墓標の戒名が明らかに人の手で削られていることを発見した箇所。故人の戒名までも徹底的に破壊する。鹿児島の廃仏毀釈の厳しさに驚かされ、当時の社会状況が偲ばれた。

また個人的に興味深かったのが、「山川石」が住持墓などに使われていること。山川石は鮮やかな黄色と縞模様が特徴的な指宿で採れる石で、島津家の墓にも使われている石として有名だが、住持の墓にも使われているのは意外だった。

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こちらも川田さんブログ薩摩旧跡巡礼より引用。住持墓の近くに合った名犬ふじのお墓。可愛がられていたのがよくわかる。こういうところを見逃さないのがすごい。

歴史に詳しくない私でも意外な発見があったので、歴史好きならなお面白いかもしれない。でも難しいことを抜きにして写真集としてとても美しいのでぜひ一度手に取ってみて欲しい。

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著者の川田達也さんのブログはこちら。

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