半生をかけて貝殻の収集・研究に没頭した古川美年生さんという方がいます。「東洋経済オンライン」に寄稿した記事でその生涯を追いました。
記事の中ではあまり貝殻の紹介ができなかったので、こちらのブログで貝殻の魅力を紹介したいと思います。古川さんの標本を訪ね歩いて取材する中で、私は「こんなにも鮮やかな色、ユニークな形の貝殻が海の中で生み出されている」ということに感動を覚えました。
また、古川さんの標本が見られる文化施設の情報も記事の最後にまとめてあります。もしこの記事を読んで貝殻に惹かれるものを感じたら、ぜひ古川さんの標本を見に行ってみてください。
▲小学校に標本とともに寄贈した古川さんの言葉。“美しい自然、ふしぎな自然、力強い自然が、貝殻の中から聞こえてきます。”
美しい色彩・形・つやで収集家から愛されている「タカラガイ」
多種多様な模様につや、色彩豊かな美しい殻に覆われたタカラガイ。貝殻の花形として収集家から愛されています。貴重な深海産タカラガイの中には一個十万円を越える高価なものもあるのだとか。
日本では沖縄や奄美大島などの暖かい海の珊瑚礁に多く生息しています。海水に溶け込んでいるカルシウムを貝が取り入れて、外とう膜によってこの美しい殻は作られています。
▲ジャノメタカラガイ
まるで蛇の目のような模様。自然の造形の巧みさに驚嘆せずにはいられません。
▲ハチジョウタカラガイ
とりわけつやと光沢が美しいハチジョウタカラガイ。黒と金のコントラストがまるで蒔絵のようです。
▲キイロタカラガイ
キイロタカラガイは昔、中国やアフリカ、インド、太平洋諸島などで通貨として使われていました。当時の墓からこれらの貝殻が出てくるのだとか。貝殻から見える人類の文化も興味深いですね。
桃色が可憐な「サクラガイ」
古川さんは、サクラガイが特に好きだったらしいです。菱刈郷土資料館にはたくさんのサクラガイを収めた絵画のような標本の展示があります。生涯で一体どれだけの数のサクラガイを集めたのでしょうか。
サクラガイには多くの種類があるようで、どれも美しい桃色が独自の存在感を放っています。サクラガイって、海岸で見つけると宝物を見つけたみたいにときめきますよね。子どもの頃夢中で探したのを思い出しました。
▲ヒガンザクラガイ
▲エドザクラガイ
▲カバザクラガイ
さまざまな名前のサクラガイが標本に収められていました。海のものである貝殻に、山里に咲く様々な桜の名前が付けられることに何だかロマンを感じます。
驚くほど小さくて細かい貝殻たち
「どうしたらこんな細かい貝殻を見つけられるのだろう」と驚くような微小な貝殻たち。古川さんの標本にはそんな貝殻がたくさん収められています。砂浜に張り付くようにして探したのでしょう。
▲コメツブガイ
大きさ3~5mm程度のコメツブガイ。並々ならぬ情熱がないと、こんな見つけることはできないと思いました。
▲ササノツユガイ
▲ウキヅツガイ
ウキヅツガイは筒の形をしています。すごく薄くて壊れやすく、大きさもわずか6~7mmくらい。傷がつくとすりガラスのように白っぽくなる貝殻で、このように透明感が残っているのは採取や扱い方の方法がすばらしいことの証拠ですね。
ユニークな名前の貝殻たち
地球上のありとあらゆる植物や動物、物事に共通点を見出して名付けられた貝殻も多く、その形と名前を見ているだけでも楽しいです。どんな気持ちで名前を付けたのかな、と想像が膨らみますね。
▲ツバメガイ
まさにツバメのような形をしています。かわいいですね。
▲タケノコガイ
たしかにタケノコっぽいかもしれません……!
▲テンシノツバサガイ
流れるような曲線に羽根のような模様の、この真っ白な貝殻に「テンシノツバサガイ」という美しい名前が付けられています。英語名の「angel wing」を訳したものです。
▲カゲロウガイ
この透明感のある貝殻に、儚い命のカゲロウを重ねたのでしょうか。
▲クチベニガイ
貝殻の内側が薄いピンク色をしています。その名前の通り、口紅を塗ったような貝殻です。この標本は淡い色合いですが、もっと鮮やかな赤色をしたクチベニガイもあるようです。
太古の昔から生き延びてきた「ハマグリ」
私たちが普段何気なく食べているおなじみのハマグリ。古川さんの『貝の不思議』によると、ハマグリは縄文時代の貝塚の中からも多数見つかっており、太古の昔から人類にとって貴重な食糧でした。内湾性の河口に近い砂泥地に生息し、堆積した食べ物や海流で運ばれてくるプランクトンを食料にしています。
海流の荒れや外敵から身を守るため、安全な砂の中で生活できるように殻やからだのつくりを変化させてきたハマグリは、太古の昔から多くの生物が絶滅する中で、環境にうまく適応して何億年も生き延びてきた生物です。
そんなことを知るとハマグリに対する見え方が変わります。しかし、古川さんはこんな風に書き残しています。
今日、潮干狩りをしてもハマグリ・アサリがほとんど見つからないのは寂しい限りです
-月刊シルバー・エイジより
何億年と生き延びてきた生物が減りつつある現代、昨今の地球規模の環境変化のスピードがとてつもない速さなのだと感じられます。
【参考】古川さんのコレクションが見られる施設
菱刈郷土資料館(伊佐市菱刈ふるさといきがいセンター2階)
古川さんの標本が一番たくさん見られるのはこの施設です。1600種3300個の貝殻コレクションがずらりと並んでいます。
住 所:鹿児島県伊佐市菱刈前目2019番地2
開館時間:火曜~土曜 9:00~18:00
日曜 9:00~17:00
電話番号:0995-26-3000
休館日:月曜休館(月曜が祝日の場合は開館で、火曜が休館)
料金:入場無料
鹿児島県立博物館
1269種の貝殻コレクションが鹿児島県立博物館3階の学習情報室の棚に収蔵されています。棚ごとに番号が振られており、貝殻の名前から検索できるようになっています。古川さんは定年後、ここで学芸指導員として働いていました。
住所:鹿児島市城山町1番1号
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
電話番号:099-223-6050
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)、毎25日(土日開館)、年末年始(12/31~1/2)
料金:入場無料 ※プラネタリウムは有料
https://www.pref.kagoshima.jp/hakubutsukan/
霧島市立隼人図書館
霧島市立隼人図書館の入り口に8つのショーケースが展示されています。私が古川さんの標本に出会ったのは、実はここです。
住所:霧島市隼人町内山田1丁目14-76
開館時間:平日10:00~19:00、土日祝9:00~17:00
電話番号:099-223-6050
休館日:月曜(夏休み中は開館)、年末年始(12/29~1/3)、特別整理期間12月中に10日間
料金:入場無料
https://www.lib-kirishima.jp/contents/?page_id=44
伊佐市立大口図書館
535種886個の貝殻コレクションが展示されています。また、大口ふれあいセンター4階には、大口歴史民俗鉄道記念資料館もあります。
住所:伊佐市大口里2845-2(大口ふれあいセンター2階)
開館時間:9:00~18:00、日祝9:00~17:00
電話番号:0995-22-0417
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/28~1/4)
料金:入場無料
https://www.pref.kagoshima.jp/suisuinavi/24999.html