フリーライターという仕事柄、「今まで行った場所でどこが一番ですか?」とよく聞かれる。それぞれ好きなポイントがあるし、気分や目的でどこが一番かは変わるから答えるのは難しい。
でも、あえて夢中になっている場所を挙げるとすればそれは離島だと思う。それも限られた交通手段でしか行けない、海の遠くの……。
私が住む鹿児島は、南北600キロメートルもの広さに県土が広がっている。離島の数は全国で二位、離島人口でいえば全国一位。海で隔たれた離島は、独自の生態系や環境が発達していて、訪れるたびに心揺さぶられてしまう。熊本や宮崎と陸で続いている鹿児島本土のエリアとは全くの別世界だ。いまだ見たことのない世界が、海の先には広がっている。
去年2019年の12月に、そんな離島の中でも、とりわけアクセスしづらいトカラ列島の中之島を訪れた。空路も陸路もない、交通手段は週2~3便のフェリーだけ。隔絶されて独自に発達した生態系も手伝って、トカラ列島はテレビや雑誌で「最後の楽園」「最後の秘境」などと表現されている場所だ。
■深夜の港を出発 トカラ列島中之島へ
夜の鹿児島港へ。静かな夜の港は、潮の匂いがいっそう強く立ち上ってくるようだった。
トカラ列島行きのフェリーは23:00に鹿児島港を出港する。そして翌日5:00にトカラ列島の玄関口・口之島へ到着。そこから中之島、諏訪之瀬島、平島、悪石島、小宝島、宝島とトカラ列島の有人島6島に立ち寄り、最後は奄美大島の名瀬港へたどり着く。
フェリーとしま2は総トン数1,953。全長 93.47m、全幅 15.80m、航海速力 19ノット、旅客定員 297名の大型客船で「フェリー界のベンツ」なんて言われたりもしているらしい。横ゆれ減少装置(フィン・スタビライザ)搭載で、黒潮の流れのはやいトカラの海を渡るのにふさわしい機能を備えている。
船内にはシャワーやレストラン、授乳室まで完備されていて、初めてフェリーとしまに乗ったときはこの豪華さにびっくりした。
自動販売機ではアルコールも売られている。
レストランには楽しそうに酒盛りをする人たちがいた。島へ帰る人、島へ行く人など、たくさんの乗船者が談笑していた。
一番安い二等のチケット・片道6,290円で乗り込んだ。二等客室には2段ベッドが並んでいて、カーテンを閉めれば完全に自分だけの空間になる。荷物を片付けて、シーツを敷いて、あれこれしていたらフェリーが出航していた。
看板に出てみると、夜の海に鹿児島の街の明かりが浮かび上がるようだった。
ゆっくりと街の明かりが遠ざかっていき、暗闇と静けさに包まれる。この瞬間がたまらなく心地よい。
飛行機や新幹線で旅をする今の時代。鹿児島から東京まで飛行機で約2時間、東京から大阪までは新幹線で約2時間半ほどだ。スマホを見ているうちに、音楽を聴いているうちに、あっという間に目的地に着いてしまう。だからこそ、夜の海を渡って進むトカラ列島への旅は旅情に満ちている。
■真っ暗闇の海上からみた星空
鹿児島港を出たフェリーとしまは、桜島を通り過ぎ、錦江湾を抜けて外海に出る。
これは2年前の夏に初めてトカラ列島を訪問した時のことなのだけれど、深夜の2~3時ごろ島へ行く興奮からか、寝苦しさからか、眠れずに外の風に当たりに甲板に出てみた。
そこに広がっていたのはまるで降ってくるような満点の星。
今までの人生で、こんなにきれいな星空を見たのは初めてだった。街の明かりもない、光化学スモックもほとんどない、360℃を暗闇に包まれた夜の海はこんなにも星空を輝かせてくれる。
人の生活圏から外れた海の上ではこんなに星の見え方が違うものか、と驚いた。あまりの美しさに、いつまでも眺めていたくなった。
そして、夏の日の出は早い。朝5:00前には、トカラ列島の玄関・口之島へ近づいてきた。この時見た朝焼けも忘れられない。島の黒い影と山の稜線の向こうを、鮮やかな赤が染め上げていた。
■トカラ列島へ
残念ながら今回の旅は曇り空で星は見えなかったし、冬の旅だったので日の出時間が遅く、海の上で朝日を見られなかった。でもいつかまたあの星空と朝焼けを見るために、トカラ列島へ行くと思う。
早朝5:00に口之島へ到着。
それぞれの島に着くたびに、大規模な荷物の積み下ろしがある。週2~3便のフェリーは島への唯一のアクセス方法であると同時に、唯一の郵送手段。フェリーのリフトが下ろされて、物資や食料、郵便物などが大量に運び込まれる。島の特産である牛が積み込まれる様子も見た。出荷されたのだろうか。
6:00に目的地の中之島へ到着。まだ夜は明けない。港には迎えの人や運び込まれた物資をとりに来る人たちでにぎわっていた。
■中之島到着
私も案内の車に乗り、暗い海沿いの道を通って宿へ。
中之島に宿は4軒しかない。大体いつもインフラ関係の人が仕事で長期宿泊しているので、いつ行っても予約は結構埋まっている。だからトカラ列島への旅は早めの計画を立てて宿を抑えておく必要がある。私は1カ月前に予約した。それでも希望の日は満室で、予定を1週間ずらして宿泊することになった。とにかく早めの予約がおすすめだ。
島の朝は早い。既に朝ごはんが用意されていた。
中之島の宿の食事は一泊4食。到着日の朝・昼・晩の3食と翌日の朝食まで出してくれる(お願いしておけばお昼のお弁当も)。なぜなら島内に飲食店はないからだ。宿以外で食事できるところはないので、すべての食事を宿で食べることになる。これはトカラ列島のどの島も同じだ。
■島の朝焼け
到着時はまだ真っ暗だった空が、後に徐々に明るく。カメラを掴んで、朝焼けを見るために慌てて宿を飛び出す。
島で見る日の出はなんだかとても特別な感じがする。
ハイビスカスやツワブキの花が咲いていた。
夜のフェリーに揺られて訪れたせいか、島の風や日が昇っていく様子にたまらない開放感を感じた。
(中編につづく)
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