鹿児島フリーライターのブログ

横田ちえのブログです。

【調査】屋久島は降雨量日本一だから、ダムもスゴいの? 見に行ってきた

本記事は、2018年1月18日に「ネタりか」(運営元:ヤフー株式会社)で公開された記事を転載したものです。「ネタりか」が閉鎖されたため、許可を得てこちらにアップしました。


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こんにちは! 鹿児島ライターのちえです。


突然ですが皆さん、日本で最も雨の多く降るエリアはどこだかご存じですか?


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答えは屋久島」です!


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映画『もののけ姫』の舞台のモデルとなった苔むす森や、樹齢数千年の縄文杉などが有名な屋久島ですが、「月に35日雨が降る」と言われるくらい、とにかく雨がよく降ります。


そこで疑問に思ったのが、


「降雨量トップクラスの地域のダムはどうなっているの?」


ということです。


観光資源としても注目されているダムですが、屋久島のダムの話はほとんど聞いたことがありません。


というわけで今回は、屋久島のダムを見に行ってきました!



まずは尾立(おだて)ダムへ行こう!


早速ダムを見に行きます!


屋久島のダムは、「尾立ダム(別名:荒川ダム)」1つだけです。


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荒川登山口にやってきました。


尾立ダムのある場所は、有名な縄文杉へと続く荒川登山口の近くです。荒川登山口へはバスが運行していますが、12~3月のオフシーズンは一般車両での乗り入れもできます。


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荒川登山口から1キロメートル弱ほど引き返して、トンネルを抜けると……。


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尾立ダムです!


しかし、「立入禁止」の札が掛けられており、中には入ることができないようです……。


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ダム沿いに金網が張りめぐらされており、隙間から撮影するくらいしかできません。


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定礎板や、


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ダムの本体が金網越しに見えました。


しかし中に入れないので、いまいち全貌が見えません。


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尾立ダム、一体どんなダムなのでしょうか!?


このダムを管理している屋久島電工さんに話を聞きに行ってみましょう!


「尾立ダム」について聞いてみよう!


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▲宮之浦にある屋久島電工


――尾立ダムを見に来る観光客はいますか?

屋久島電工:ほとんど聞かないですね。縄文杉を見に行く人も、バスに乗っていて気づかず通り過ぎるのではないでしょうか。金網越しにしか見えませんし。



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▲木の枝に隠れていてほとんど見えない尾立ダム


――降雨量日本一とも言われる屋久島ですが、ダムの貯水量も多いですか?

屋久島電工:いいえ、ダムの規模は大きくありません。貯水量は約200万立方メートル【※】です。

※ 貯水量全国1位の徳山ダムの貯水量は6億6000万立方メートル


――「雨が多い=ダムの水が多い」というわけではないんですね。

屋久島電工:はい、そうです。ダムの機能は洪水の調整、水資源の確保、水力発電、河川環境の保全など、その土地によってさまざまですが、屋久島の尾立ダムは水力発電のみを目的に作られています。


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屋久島には川が数多く流れている。これは安房川(あんぼうがわ)


――どうして屋久島に水力発電のダムを作ることになったのですか?

屋久島電工水力発電は、落差のあるダムを利用して水を下に流し、発電用の水車を回す仕組みです。標高差のある地形、雨の多い土地という条件が必須になります。屋久島は周囲132キロメートルの小さな島ですが、九州最高峰である標高1936メートルの宮之浦岳をはじめとする険しい山々が連なっています。雨も多く水力発電にぴったりでした。


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屋久島の模型。標高の高い山が島の中心部に連なっている


――尾立ダムはいつからありますか?

屋久島電工:1963年4月に完成しました。それ以前は、大きな集落では川の水を利用した小水力発電があったようです。


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▲尾立ダムはアーチ式コンクリートダム。この建造には、水圧に耐えるダム両脇の強固な基礎岩盤の存在が必要。花崗岩(かこうがん)が隆起してできた屋久島はこの条件を満たしていた


――島内の電力供給のどれくらいを水力発電でまかなっていますか?

屋久島電工:ほぼ100%です。


――えっ!? すべて水力発電なんですか?

屋久島電工:はい。発電量は5万8500キロワットで、このうち約25%が家庭用に使われています。バックアップとしての火力発電を用意していますが、水が足りなくて火力発電を使うことはほとんどありません。水力発電所のメンテナンスをするときに稼働させています。



降雨量が多い、傾斜が急で険しい地形、花崗岩の強固な地盤、屋久島の自然条件がまさに水力発電にうってつけだったのですね。


太忠岳(たちゅうだけ)に登って、尾立ダムの全貌を見る!

道路沿いからは全貌が見えない尾立ダムでしたが、


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太忠岳に登れば、山頂から尾立ダムが見えるという地元情報を入手!


最後に登ってみたいと思います。


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太忠岳に登るにはヤクスギランドの登山口からスタートします。


「ランド」と聞くとレジャー施設のような印象を受けますが、ヤクスギランドは屋久杉が群生している神秘的な森です。


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登山口からは太忠岳の山頂が見えます。このとんがった岩は、太忠岳山頂にある天柱石(てんちゅうせき)。ここまで登ります!


所要時間の目安は登り3時間30分、帰り3時間、往復で6時間30分の登山コースになります。


……遠い。


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安房川を渡り、


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苔むす森を進みます。


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水を蓄えた苔がキラキラ輝く森の風景や、


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巨大な屋久杉を眺めて、ひたすら歩きます。


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標高1200メートルを超え、山頂まであと1時間を切った頃、雪が降ってきました……。


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あっという間に雪景色に。


山頂が霧で覆われてしまうと、尾立ダムが見えなくなってしまいます。不安になりながらも山頂に進みます。


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山の天気は、晴れたり曇ったり雨が降ったりとコロコロ変わります。ましてや降雨量の多い屋久島。霧で覆われてしまうことも多いです。


少し日が差してきました! どうかこのままの天気で……!!


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天柱石に到着! ロープを伝って岩をよじ登ります。


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この岩の先に……。


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見えました!


山に挟まれた真ん中に見えるのが尾立ダムです。素晴らしい眺望!


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これが尾立ダムの全貌です。ダム好きの方には小さくて物足りないかもしれませんが、雪に降られながら苦労して登ったので、とても感動しました。


このダムの水で、屋久島島内で使うすべての電気を作っているのですね……。


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晴れた空に虹がかかっていました。


おわりに

降雨量日本一の屋久島のダムについて調べてみたら、独自の地形を利用した発電事情について知ることができました! 世界遺産の島・屋久島の別の側面が見えたようで、楽しい取材でした。


屋久島以外にも、鹿児島の離島は、ロケット発射基地のある種子島や、世界初の海流発電の実証実験が沖合で行われた口之島など、大自然と科学の同居する不思議な土地です。


手つかずの大自然が残されているからこそ、さまざまな可能性が眠っています。


離島を訪れることがあったら、観光だけでない側面に目を向けてみるのも面白いですね。


ライター:ちえ(@kirishimaonsen

編集:ノオト