鹿児島フリーライターのブログ

横田ちえのブログです。

【4万坪の大庭園】東雲の里の春夏秋冬


鹿児島県出水市の山奥に「東雲の里」という大庭園があります。紫陽花の季節が有名で、梅雨時期になると約4万坪の敷地に色とりどりの紫陽花が咲き乱れています。北海道の蝦夷紫陽花から屋久島紫陽花まで日本中の品種が植えられていて、その数は160種類以上とも。

園主は宮上誠さん。今から31年前の1992年、陶芸家・看板屋として仕事をしていた宮上さんは「自分の作った器で、最高の景色を見ながら蕎麦を食べてもらいたい」と大いなるロマンを抱き、手付かずの山でひとり開墾を始めました。

その宮上さんの開拓ストーリーを以前メシ通で記事にしました。

www.hotpepper.jp

結構大きな反響をいただき、県内だけでなくはるばる県外からもたくさんのお客さんが訪れてくださったと聞きました。私は宮上さんのお話をそのまま記事にしただけなのですが、素敵な場所を多くの人に伝えられてうれしい限りです。

メシ通の記事では紫陽花の季節の写真を中心に紹介しましたが、「東雲の里」は春のツツジ木蓮、桜、輝くような夏の新緑、秋の紅葉、冬の静かな雪景色も素晴らしく、年間を通して変化してく山と植物が美しいところです。一度訪れると、いろんな季節の風景を見てみたくなります。

そこで、今回の記事では「東雲の里」の一年を通しての風景をお伝えたいと思います。四季折々で変化する風景や植物、蕎麦屋のメニューを写真と共に紹介ます。春、夏、秋、冬と分けたので、気になる部分だけ読んで頂いてもいいかと思います。ぜひ旅の参考にしてください。

ちなみに私のおすすめは春です。ハヤトミツバツツジや梅、桜がとてもきれいで、紫陽花シーズンほど混んでおらずのんびり過ごせます。


※この記事の中で紹介する開花時期はあくまでも目安です。最新の情報は東雲の里のインスタグラムでご確認、または施設に問い合わせください。


冬枯れの山に灯りがともったような桃色に心躍る【春の風景】


鹿児島は南国のイメージを持つ人も多いかと思いますが、「東雲の里」のある出水市の冬は冷え込みが厳しく毎年雪が積もるほどです。だからこそ、草木が芽吹き、花が野山を彩る春の喜びは大きいものです。生き物たちが静まり返るような、しんしんと凍えるような冬が終わりに近づくと、冬の間じっと眠っていた植物が一気に目を覚ましていくようです。

 

 

冬枯れの山々に灯りが灯ったように、河津桜、梅、岩ツツジ、ヤマブキ、レンギョウハクモクレン、桃、山桜と次々と咲き乱れていきます。まさに百花繚乱の美しさ。ピンクってとても気持ちを華やかにしてくれる色ですよね。淡い桃色から濃いピンクといろんなピンクがあって見惚れてしまいます。


晴れた日もきれいですが、霧のかかったくもりの日は幻想的な美しさがあります。水墨画の世界から浮かび上がってきたよう。


 


春で最初に見頃がくるのが、岩ツツジ(ハヤトミツバツツジ)。2月末~咲き始めて、3月が見ごろです。ハヤトミツバツツジは元来山に自生している花でしたが、その美しさから乱獲されてしまい山ではほとんど見られない絶滅危惧種です。人が近づけない断崖絶壁に少しその姿を残すだけ。

 


濃い桃色といい、可憐な花の佇まいといい、とても愛らしい花です。

 


ハヤトミツバツツジを追いかけるようにして、やぶ椿、梅、木蓮、ミヤマカイドウ、ヤマブキ、レンギョウが花開いていき、4月頃に桜が見ごろを迎えます。


ヤマブキと桜の満開時期が重なると、黄とピンクのコントラストが鮮やかです。


これは2020年4月の桜。この年は暖冬のせいか、花が満開になる前に先に葉が出てしまったそう。冬の冷え込みが厳しい年の方が、桜は美しく満開になるそうです。厳しい寒さに触れると、温かくなった瞬間に子孫を残そうと一気に花開くためなのだとか。

 


「東雲の里」の桜は、ソメイヨシノは駐車場付近に少し植えてあるだけ。ソメイヨシノは接ぎ木を繰り返しているからおしべ、めしべが退化していて子どもができないそう。河津桜やしだれ桜などを中心に植えてあります。


春の「草の居」

 


まだ冬の寒さを残すこの時期、園内にある蕎麦屋「生そば 草の居」では暖炉が赤々と静かに燃えていて、じんわりと温かい店内が居心地良いです。「生そば 草の居」は11:00からの営業で手打ちの十割蕎麦を提供しています。なくなり次第終了なので、蕎麦目当ての人は早めに行きましょう。


ほの暗い店内から見る庭園の岩ツツジや桜がきれいです。随所に飾られた盆栽や野の草花が可憐です。


この時は「かけ蕎麦」を頼みました。どの蕎麦メニューにも前菜が付いてきます。前菜はその時々の旬の野菜や山菜を使ったものなので、その季節らしさを感じられるのがうれしいです。この日はキンカン煮、土筆に見立てた牛蒡とゴマ、お浸し。器に添えてくれた桜の花がかわいらしいです。


春とはいえまだ風が冷たい時に、温かいそばを食べるとほっとしますね。たっぷり出汁を吸った揚げがジューシーでおいしいです。添えられた柚子がいい香り。

 

梅雨空にしっとり浮かび上がる紫陽花【夏の風景】

 


6月は「あじさいまつり」のシーズン。この時期は入園料が500円になります。咲き誇る約10万本の紫陽花は、山の起伏や植生の中に美しく調和しています。曇り空のくすんだ日に見ると、青や紫、赤、ピンク、白と色鮮やかな紫陽花がしっとりと浮かび上がってくるようです。


植えられている紫陽花の品種は多種多様で、200種類以上。屋久島紫陽花から北海道の蝦夷紫陽花まで、日本の北から南までいろんな品種を揃えています。


西洋紫陽花は少なめで日本在来種が中心です。山紫陽花などの日本在来種は、西洋紫陽花のようにぱっと派手な美しさはありませんが、詫び寂びを感じさせてくれるような、心に染み入るよさがあります。それは、実際に山を歩いて見て回るとより実感できるかと思います。

山紫陽花をいくつか紹介しましょう。


・紅(くれない)


山紫陽花の紅(くれない)。咲き始めの装飾花は真っ白なのに、徐々に紅色に変化していく不思議なヤマ紫陽花です。日の光を浴びることで色が変わるのだとか。白く可憐な佇まいも、紅の艶やかな風情も、どちらも美しいです。

・日向紅(ひゅうがべに)
 


宮崎の山に自生する「日向紅(ひゅうがべに)」。朝の柔らかな光の中で見る姿はしっとり艶やかでした。一株の紫陽花の装飾花の中にも、赤や青、ピンク、紫と繊細な色のグラデーションが感じられます。一言では説明できない色合いがなんとも美しいです。


・城ケ崎(じょうがさき)
 


静岡県伊東市城ヶ崎海岸に自生するガク紫陽花「城ケ崎(じょうがさき)」。八重咲きの大きな装飾花が印象的。梅雨で蒸し暑いこの時期に、青と紫の繊細な色合いが涼やかに目に映ります。

 


梅雨の季節は湿気が多くてじめじめしますが、降り続ける雨にどこか落ち着いた気持ちになることもありますよね。長雨は大気中のちりやほこりを洗い流してくれるように感じられます。そして何より雨に濡れた紫陽花には、この季節にしか見られない趣があります。

 


もちろん晴れた日に見る紫陽花も清々しくてきれい。

 


紫陽花シーズンが終盤になると、山の緑が一層輝いて見えます。梅雨で水をたっぷり吸いこんだ草木は、夏に向かって勢いよく成長しているようです。花咲く山もきれいだけれど、生命力あふれる輝く緑もすばらしいなと感じました。

 


山道にはホタルブクロが咲いていました。俯いているような釣鐘型の花が愛らしいです。

 



園内の道に置かれている水鉢は、睡蓮が花開いていました。ピンクとオレンジのグラデ―ションがきれいです。午前中に咲いて、夕方にはしぼんでしまいます。見るなら午前中から昼頃がきれいです。

夏の「草の居」


 前菜は紫キャベツの酢のもの、蕎麦屋の卵焼き、ごま豆腐。添えてくれた紫陽花がなんとも涼やかです。

 


 ざるそばはいつの季節でもおいしいけれど、夏に食べるのは特別いいものですね。つるんとした喉越しが気持ちいい。

 


おやつに珈琲とチーズケーキも頂きました。黒い器に紫陽花の青が映えますね。


可憐な大文字草に蕎麦の花、紅葉が楽しめる秋【秋の景色】

 


「東雲の里」ギャラリーでは毎年10月頃になると「大文字草展」を開催しています。

 


小さく可憐な花を咲かせる「大文字草」は、花の形がまるで「大」の字に見えることから名付けられたそう。山地の岩の上など、湿気の多いところに咲いている山野草です。愛らしい姿に和みますね。

 

 


品種や色によってその姿はさまざま。色や花弁の形がいろいろあって、じっくり見ていると楽しいです。

 


この時期になると夏に咲いていた時のみずみずしさはすっかり抜けて、紫陽花は枯れていました。真っ盛りの勢いはないけれど、茶色く乾いた花びらに秋らしい情緒を感じます。

 


裏手の畑には蕎麦が植えられています。「草の居」で提供している蕎麦は鹿児島や北海道など各地から仕入れていますが、自家栽培でのオリジナル品種づくりにもチャレンジしています。9月頃に種を撒いて、10月には真っ白な蕎麦の花が咲いていました。

 

 

11月に入ると紅葉シーズンの到来です。

 


朝晩の冷え込みを感じるようになった頃、山々の植物も葉から水分が抜けて赤や黄、オレンジに色づいていきます。

 


「東雲の里」の紅葉は2段階あります。色づき始めた葉と夏の名残を残して緑に輝く葉のコントラストが美しい前半の11月上旬~中旬ごろと、すべての葉が染まって赤や黄色で埋め尽くされていく後半の11月中旬から下旬ごろ。(※年によって時期は異なります。お問い合わせください)どちらの紅葉もそれぞれ違った良さがあります。

 


モミジの木は一面の黄色です。モミジの木は紅くなることもあれば、黄色くなることもあるそう。気候や年、条件などによって変化するそうです。この年は黄色に紅葉していました。

 


ギャラリーの近くにある紅葉の木は、岩の上から生えています。これは岩の上に紅葉の種が落ちて、発芽して、それが徐々に大きく成長して、7~8年という歳月をかけてとうとう岩を割ったそう。自然の力強さに驚きます。

 


岩の上に生えているのは岩ツツジの芽。「毎日観察していても、次から次へと驚くこと、感動することがある」宮上さん。岩の上は夏に太陽熱で50℃以上の暑さになるから、岩ツツジが死なずに芽吹いたのはすごいことです。

「東雲の里」の樹木は、種から育ったものが多いのも特徴です。芽が出たら鉢植えにして、何年かかけて太らせてから植えているそう。長い歳月をかけた庭園づくりをされています。

 


夕方になると西日に照らされたモミジが燃えるよう。西日が差し込んで赤く輝いている部分と影になっている部分の、赤と黒コントラストがきれいでした。

 


夕暮れ時の空気の澄んだ感じで、秋の訪れを実感します。西日が落ちていく遠くの山脈の鼠色から墨色のグラデーションがきれいでした。



秋の「草の居」
 


秋になると、「生そば 草の居」の軒先には柿がぶら下がっています。

 


このオレンジ色を見ると秋だなぁとしみじみします。

 


庭先の手水鉢(ちょうずばち)の周りにはホトトギスが咲いています。

 


前菜は蕎麦屋の卵焼き、自家製こんにゃく、くずもち。蕎麦の花が添えられていてかわいいです。

 


そば粉は北海道産。そば粉は北海道、熊本、鹿児島とその時々に応じて仕入れているそうです。この後に蕎麦湯が来ました。この季節の蕎麦湯は沁みますね。



静寂に包まれた山景色が心に染みる【冬の景色】

 


紅葉が終わった冬枯れの時期ですが、静寂に包まれた山の雰囲気もいいものです。

 


冴え冴えと澄み渡った空気と、枯草や枯れ木が作り出す“詫び寂び”的な冬景色。静かな情緒があっていいなあと思いました。「東雲の里」を訪れるお客さんの中には「冬が一番好き」という人もいるそうです。この静かな雰囲気は他の季節にはない安らぎがあります。

 

 

冬の夕日にはなんだか郷愁を覚えます。

インスタで写真を見ていると雪景色もとてもきれいです。私は雪の日に「東雲の里」に行ったことがないので、先方から提供して頂いた画像で紹介します。※雪景色の時に訪れる場合は道路状況に注意してご訪問ください。臨時休業になる場合も多いので、インスタで確認してからの訪問がいいでしょう。

 

 


まだ夜が明けきらないうちに見る雪景色は幻想的な美しさです。

 

冬の「草の居」


店内は、ストーブの火が赤々と燃えていて暖かいです。パチパチとはぜる音も炎が揺れる様子も心地よくて、ずっと見ていたくなります。私は冬に「草の居」で食事をしたことがないので、蕎麦紹介は割愛します。今後利用することがあれば追記します。

 

 

「東雲の里」の年間スケジュール ※あくまでも目安です。
2月 ハヤトミツバツツジ、やぶ椿、河津桜、梅
3月 木蓮、ミヤマカイドウ、レンギョウ、ヤマブキ
4月 しだれ桜、ソメイヨシノ、新緑
5月 アジサイ、アヤメ、ホタルブクロ
7月 水連
10月 大文字草展
11月 紅葉シーズン、アケビ、栗

「東雲の里」
住所:鹿児島県出水市上大川内2881

定休日:木曜・金曜 ※祝日や紫陽花、紅葉時期は休みなく営業しています

公式サイト:https://www.nippon-no-ajisai.net/

Instagram:https://www.instagram.com/shinonome_no_sato/?hl=ja

 
 
 
 
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